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救急病院の妊婦受け入れ拒否問題

今年9月にも脳出血を起こした妊婦を、救急病院が受け入れを拒否し、出産後に亡くなられていた事件が起きていたことが明らかになった

この問題、医師不足が原因のひとつであると指摘されるが、もっと構造的な問題にも目を向ける必要がある。

医師不足の問題は、これまでは無医村などの地域格差の問題がクローズアップされてきた。しかし、今回、問題が生じた救急病院は東京の病院である。ここには、絶対的な医師不足の問題があると考えられる。そもそも、特に、小児科や産婦人科の医師が少ないのか

その原因のひとつは、訴訟リスクの高さであろう。話を伺ったところ、産婦人科や小児科は、他の科に比べて、治療リスクの高い専門科であると言われる。リスクは、医療ミスではなく、治療の難しさである。つまり、命の危険性が高い分野であるということである

医療ミスや事故は、予防努力を引き上げれば、リスクを低下させることができる。しかし、命の危険性に依存する救命の失敗は、どれだけ予防の努力をしたとしても回避できない可能性がある。

いま、事故発生確率と損害の大きさをかけあわせたものを借りに救命失敗の費用と考えよう。そして、予防努力のための費用を予防費用と考える。

縦軸に費用、横軸に予防水準を考えて、この2つの費用を足し合わせたものを社会的費用と考えると、その社会的費用を最小化する点で予防水準が決まる。損害賠償責任を、すべて医師側が負うという予防の一方性ことを前提に考えれば、過失責任ルールの下では、予防水準以下の努力の場合は、救命失敗の費用を、予防水準以上の努力の場合は、予防費用を負担する。
一方、無過失責任ルールの下では、予防水準の努力に関わらず、社会的費用を負担することになる。

このような場合、一般的な損害賠償ルールにおける議論では、予防の一方性の下では、より事故発生の回避努力(予防水準の引き上げ)のインセンティブを持つ無過失責任ルールの方が良いと考えられるが、産婦人科や小児科における救命の場合は、どうであろうか。

他の専門科と相対的という意味で、命の危険性が高いということを考慮すると、産婦人科や小児科は、救命の失敗の発生確率は高くなる。すなわち、救命失敗の費用は、高くなり、上方にシフトする。そのため、予防費用が一定であると仮定し、もしくは、命の危険性の高さに伴って、予防費用が高くなることを仮定すると、予防費用線は、そのままか、もしくは上方にシフトする。そうすると、社会的費用が最小化されるためには、より高い予防水準を求められるということである。

さらに、無過失責任ルールで考えれば、他の専門科に比べて、より高い社会的費用を損害賠償責任として負う必要性が出てくるのである。

このため、損害賠償責任のリスクを考えれば、産婦人科や小児科を専門科として選ぶことの合理性は小さくなり、人材不足の問題が生じるという構造の問題である。

それでは、この問題を解決するためには、どのような対応が必要であろうか。

まず、そもそも、救命の失敗確率が高い、すなわち、命の危険性が相対的に高いことが、社会的費用を引き上げる原因となっている。これは、予防水準を大きく高めれば、命の危険性は大きく引き下がるものではない。それを考えれば、無過失責任ルールで、予防水準を高めることは、人材不足を招くデメリットの方が大きい。そこで、このような命の危険性が相対的に高い分野については、過失責任ルールを適用し、救命失敗の場合の損害賠償責任を軽減することが必要であろう。

次に、予防の一方性の下ではなく、予防の双方性で損害賠償責任を関係者で分かち合うことで、さらに損害賠償責任を軽減するということも重要である。ここに、国や自治体の支援体制を組み込めば、さらにリスクを軽減できる

人材不足による過剰労働が予防水準の引き下げにつながり、リスクを高め、さらなる人材不足を招くという悪循環が起きている。シンプルに人材を増やせば良いという問題ではない。この悪循環を断ち切ることこそが重要な対応であり、それを国や自治体、そして司法がどのように支援をしていくことを考えなければ、根本的な解決にはならない。

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