「麻生くん、このままでは、君は、総裁になれたとしても、野党の総裁だ。総理大臣になるのであれば、君が自民党を勝たせて、堂々と、与党の総裁になればいい」
かくして、麻生太郎は、自由民主党幹事長に再び就任した。麻生幹事長の仕事は、連立相手の公明党との関係を修復し、選挙に勝つことだ。そのためには、あらゆる手段を講じて、民主党との決戦に備える。
福田康夫総理は、総合経済対策の策定を与謝野馨経済財政担当相に指示。
麻生幹事長は、2011年度の基礎的財政収支の健全化の先送りを示唆。
これで、経済・財政政策に関しては、3つの立場ができたと考えることができるだろう。
ひとつは、中川秀直元幹事長を中心とした上げ潮派。もうひとつは与謝野馨経済財政担当相を中心とした財政構造改革派。そして、麻生幹事長の財政再建軽視派である。
上げ潮派とシステム派の基本的なコンセプトは、共通点が多い。目標は、いずれも財政再建の達成である。上げ潮は、増収と歳出削減によって、それを達成することを目指し、増税の選択肢を優先しない、というもの。財政構造改革派は、歳出削減と増税により財政構造をリストラクチャリングした上で、財政再建を達成する。その際に、増収に依存することは、リスクが大きいと考える。
つまり、増税という選択肢を優先するのかという点と増収に関する考え方について違いがあるだけで、基本的には、2011年度の基礎的財政収支健全化の達成を実現するという同じ頂点を見ている。
福田総理は、増税の議論を踏まえて、財政構造の改革は政府として、しっかりと検討していくということで、財政構造改革派を閣僚に登用し、成長戦略及び党としての政策としては、上げ潮路線で、ということで、そのような人事を行った。つまり、今回の内閣改造は、上げ潮と財政構造改革を両輪で行い、財政再建を実現するという強いメッセージである。
そこに、KY的な財政再建軽視論が出てきたのには驚愕である。これで、麻生幹事長のイメージは、選挙のことしか考えていない(=自分が総理になりたい)としか考えておらず、この国の将来を考えていないというイメージが付いてしまうのではないか。麻生幹事長は、小泉構造改革路線を真っ向から否定するものである。これは、麻生氏は、自らの首を締めることにつながるかもしれない。
総合経済対策にしても、財政出動だけで、この危機を乗り越えることはできない。今回の危機は、外的な要因が強いものであるからだ。なぜ、2011年度までに基礎的財政収支を健全化するという財政再建をしなければならないか、という理由は、このままでは、国債が暴落するという危険性があるからである。そうすれば、経済は、かなり深刻な危機的状況となる。財政再建は、この危機的状況を回避するための手段なのである。
麻生幹事長の戦略は、秋に、経済対策で、ばらまいて、その「ばらまき」効果が出ているうちに、選挙というものであろう。つまり、年内もしくは年明け早々に選挙がおこなわれる可能性は、かなり高い。
この選挙は、勝者のいない選挙になる。ラフな感覚でいえば、自民党が210-220議席程度、民主党が200-210議席程度という形になり、第3政党の重みが強くなる。
選挙後のシナリオは、この状況で政界再編が行われる、というシナリオ。そのときは、自民党も民主党もなくなるだろう。もうひとつは、かろうじて、自公連立政権の維持である。
後者のシナリオの場合、麻生氏が冒頭のセリフのように与党の総裁として、総理大臣になれるかどうか、ということを考えると、それはなかなか難しい。なぜならば、麻生氏は、2つの点で小泉構造改革を否定してしまっている。ひとつは、復党問題、もうひとつは、今回の財政再建軽視である。
福田内閣が退陣し、総裁選になるとするならば、最有力候補は麻生幹事長になるわけであるが、そうは問屋が卸さない。小泉構造改革を否定したツケが支払われるときになる。
この総裁選は、麻生幹事長と中川秀直元幹事長もしくは小池百合子元防衛大臣が出馬することになるかもしれない。そこに、まずは、与謝野馨経済財政担当相の一夜だけの総裁候補として、浮上する。小泉構造改革の最終プランが示され、上げ潮派との協議の結果、候補が一本化される。小泉総理は、一本化された候補を支持する一方、麻生幹事長が総裁選に当選した暁には、政界再編が起きることを示唆する。
民主党も、総選挙に勝ち切れなかったことを受け、小沢代表の求心力が低下し、分裂の爆弾を抱えている。これに、小泉総理の発言飛び火し、炸裂する。
かくして、福田内閣退陣→麻生新総裁誕生により、政界再編が成し遂げられる、ということになる。
つまり、麻生氏は、選挙に勝っても、負けても、総裁もしくは総理候補になれるかもしれないが、いずれも「野党」の代表でしかない、総理にはなれないという運命にあるということである。
では、この運命を変えるためには、どうすればいいか。それは、小泉構造改革の路線転換ではない、経済対策を主導することである。
自ら、政界再編への導火線に点火する必要性は全くない。
構造改革が阻止されるとき、構造改革路線の維持のため、闘う決意をしておかなければならない。
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