フェイク vol.1 彼女は死んだ
彼女が死んだ。その女性の名前は、美和子と言った。
美和子は、大手都市銀行で働いていた。大学も国立大学を卒業し、総合職で銀行に入行した。そして、順調に出世し、いわゆるキャリアウーマンとして、行内では有名人であった。
しかし、その彼女が死んだ。死因は、事件性のない自殺だということであった。
美和子は、先月に結婚をした。南太平洋の島々への新婚旅行から戻ってきたばかりであった。住まいは、都心にある豪勢なマンションを買い、近々、そこに移り住む予定であった。
美和子は、誰もが羨むような生活をし、そして、それが続く予定であった。
そんな最中に、彼女は、突然、自殺をして、私たちの前から消え去ったのであった。
美和子の部屋で、婚約者の昌利が美和子の遺品を整理していると、白い飾り気のない封筒を見つけた。
昌利が、その封を開けようとしたとき、呼び出しベルが鳴った。
昌利がドアを開けると、40歳から50歳ぐらいの男性が立っていた。その男性は、「岡村」と名乗った。岡村は、美和子の職場の上司の部長だと、昌利に説明した。今日は、美和子の弔問に訪れたという。昌利は、何も疑いを持つことなく、岡村を美和子の仏壇の前に案内をした。
すると、再び、呼び出しベルが鳴った。昌利がドアを開けると、女性2人が立っていた。一人の女性は、里江という名前だった。里江は、美和子の大学時代の友人であった。そして、もう一人の女性は、チェルシーと自らのことを名乗った。
昌利は、「チェルシーさんですか?」と戸惑いながら言うと、「悪い?」と聞き返してきた。「それは、何か芸名とか源氏名のようなものですか?」と昌利が、さらに聞くと、「別にそんなこといいじゃない」と自称チェルシーは鋭い目で昌利を睨み付けたのであった。
チェルシーは、「そんなことよりも」と言いながら、昌利を押しのけるように部屋に入っていった。里江は、その後を遠慮することなく続いていった。里江は、岡村を見かけると、少し、俯きながら、本当に小さな会釈をした。
美和子の仏壇が置かれた部屋には、岡村、里江、チェルシー、そして昌利の4人が、それぞれが好き勝手な場所に座ったのであった。
里江が、美和子の仏壇に手を合わすと、再び、呼び出しベルが鳴った。昌利が、少し面倒臭そうにしていると、チェルシーが玄関に行き、勝手にドアを開けたのであった。
昌利は、「チェルシーさん、勝手なことをしないでくださいよ」と言って、玄関に行くと、男性2人が立っており、一人の男性が警察手帳をチェルシーに見せていた。
「私は、警視庁の水島と言います。こちらは近藤。実は、美和子さんの死に関しまして、もう少し事情を調査いたしたいことがありまして、こうしてお邪魔させていただいたんですよ」と丁寧に言った。
昌利は、「それは、どういうことですか」と尋ねると、
「つまりは、事件性のない自殺ということですが、事件性のない、という点に疑いが出てきましてね」と水島は言った。
そうすると、岡村と里江の2人も玄関に出てきたのであった。
「おやおや、皆さん、お揃いで」と水島が、少しニヤつきながら言った。
昌利は、「どういうことなのですか?」と言うと、水島は、「まあ、詳しいことは、奥で」と答えた。
すると、岡村は、少し慌てながら、「それでは、私はこれで」と逃げるように靴を履こうとすると、水島は、「いえいえ、岡村さん。あなたにも、ぜひ、お聞きしたいことがあるのですよ」と言った。
岡村は、「私は、何も関係ない。美和子くんとは、ただの上司と部下、部長と係長の関係だ」と、眼鏡のフレームを押し戻しながら言うと、「嘘。あなた不倫してたくせに。ただの上司と部下、部長と係長の関係どころか深い深い肉体関係があったんじゃない?」と里江が言った。
昌利は、「不倫?」と呟いた。里江は、「あら、知らなかったの?美和子と岡村部長は、長いこと不倫関係にあったのよ」と言った。
岡村は、「何を言い出すんだ。君は。君こそ、美和子くんを異業種交流会とか言いながら、合コンに誘い出していたくせに」
昌利は、「合コン?」と呟いた。チェルシーは、「知らぬは旦那さんだけってことね」と笑った。
水島は、「皆さん、いろいろと複雑な事情をお持ちでお忙しいところ申し訳ありませんが、皆さんにお尋ねしたいことがあるんです」と言った。
チェルシーは、「何も関係が無いのは、私だけのようね」と言うと、近藤は、「いやいや、チェルシーさん、あなたも重要参考人なんですよ」と言った。
水島は、「昌利さん、岡村さん、里江さん、そしてチェルシーさん。あなたがたに、美和子さん殺害の容疑がかけられているんですよ。今回、その犯人は、本当に巧妙に自殺を装った。最初、警察としても、そのフェイクに騙されかかった。しかしながら、私は、最初から他殺ではないかと疑っていたんですよ。そうしたら、出てきたんですね。殺害の証拠が」と言い、笑った。
「刑事さん、そうしたら、もう犯人はわかっているわけですか?」と昌利は言った。
すると、「もちろんです」と水島は答えた。
昌利は、「誰なんですか!美和子を殺したのは!」と言うと、水島は、少し鼻で笑う仕草をした後に、「まあまあ、そんなに焦らないで。夜は始まったばかりです」と言った。


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