【連載小説】Team Policy Dragon: Advocacy 9 :サイレント・イブ(5)
吉沢は、「星野、良かったな」と言った。佑奈は、「麻衣さん、あとは、福沢くんが戻ってくるだけね」と言った。麻衣は、うずくまってしまった。佑奈は、「どうしたの?」と言うと、麻衣は、「怖いの。とても、怖いのよ。俊ちゃんだけが、このまま逝ってしまうんじゃないかって」と言うと、佑奈は麻衣を抱き締めて、「大丈夫よ」と言った。
すると、医者や看護師たちが慌てて、福沢が入っている手術室に駆け込んで行った。吉沢が、「どうしたんですか?」と訊ねると、医者たちは無言で、吉沢を払いのけた。麻衣は、その様子を見て、泣き崩れたのであった。
手術室から、一人の医師が出てきた。その医師は、佑奈や麻衣を見つけると、歩みより、「福沢俊明さんのお知り合いの方ですか」と訊ねた。佑奈は、「はい。会社の同僚で、こちらは、福沢俊明のフィアンセの方です」と言った。その医師は、「そうですか。私は、この病院の桂川と申します。福沢俊明さんの状況ですが、かなり危険な状態です。覚悟をしていただかないといけないかもしれません。もちろん、全力を尽くします。しかし、銃弾が心臓を傷つけておりましたので、その修復作業を行いました。消化器の損傷も激しく、いま、駆け込んだ医師たちは、消化器外科の者たちです。これから、消化器の修復を行います」と言った。佑奈は、「わかりました。よろしくお願いします」と言った。麻衣は、ただ、泣き崩れるだけであった。
朝のテレビ番組は、昨晩の銃撃事件のニュース一色であった。ゲストコメンテーターの中には、すぐに、首相臨時代理を立てるべきだ、というような意見を言う者も多かった。3月までには、来年度予算とその関連法案を通さなければならない。その激務に、首相は耐えられない、ということが根拠であった。また、首相の警備の在り方や危機管理に関する批判も多く出てきていた。
温水は、ベッドの上で、「支持率が心配だな」と言った。水島は、「総理は、年末年始のお休みが取れたという感じで、何もご心配されず、ごゆっくりされてください」と言った。温水は、「そうだな」と言った。
手術室の前に、一人の女性が、大きなボストンバッグを持って、やってきた。佑奈は、「あなたは?」と訊ねると、「山村文子と言います。俊明さんの弟子です」と言った。すると、麻衣が顔を上げて、「山村文子さん?」と言った。佑奈は、わけがわからなそうな顔をして、「お知り合いの方なの?」と言った。「お久しぶりやな。石川麻衣さん」と文子が言うと、「なぜ、あなたが、ここに?」と麻衣は訊ねた。
「ニュースで、俊明さんが撃たれたって聞いて、いても立ってもおられずに、朝一番の新幹線に飛び乗ったんや。神崎さんもいなくなって、Team Policy Dragonも困っているやないかって、思ってな。でも、私が来たからには、もう大丈夫や。何の心配もいらへん」
佑奈は、「ちょっと、待ってよ。何がなんだか、わからないわ。あなたは、誰なのよ」と言うと、文子は、「だから、福沢俊明の弟子やって、言うてるでしょ」と答えた。
そのとき、福沢が入っていた手術室のランプが消えて、扉が開いた。麻衣は、「俊ちゃん!」と叫んだ。文子は、「俊明さん」と叫んだ。佑奈は、この状況を、一歩下がって、不思議そうに眺めていた。


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