[連載小説]いつか君にふたたび出逢うときまでに:遠い過去の記憶(65)

※本作品は、フィクションで、登場人物、団体、背景は架空のものです。もちろん、主人公の「僕」は、著者と同一人物ではなく、フィクションです。
弥生さんのお葬式が終わり、遺品を片付けていたとき、一通の手紙が見つかったと、結衣は、僕に語った。そこには、弥生さんの深い絶望が記されていたという。結衣は、弥生さんのその深い絶望が何であったのか、ということは何も語らなかった。結衣が僕に言ったのは、一つの事実であった。そのひとつは、弥生さんのお腹の中には、赤ちゃんができていたということであった。確かに、最後に、僕が弥生さんを抱いたとき、弥生さんのお腹は少し大きくなっていたような感覚があった。むしろ、僕はそれを、あえて気が付かないふりをしていたとも言えるが、確かに、弥生さんの身体は変化していた。
僕は、結衣に、「弥生さんの相手はわかっているの?」と聞いた。結衣は、「わからないわ」と言った。「神本さんとも、そういう関係は、暫く持っていなかったみたいだし、新しい彼氏ができていたわけでもないみたいだしね」と言った。僕は、「もしかすると、そのことが原因で、弥生さんは自ら命を絶ってしまったの?」と聞くと、結衣は、「それは違うと思う」と言った。弥生さんが妊娠をしていた事実は、家族の誰にも明かされていなかったし、その手紙にも書かれていなかった。浜辺で発見された後の監察での解剖で明らかになったということであった。
結衣は、僕に、「お姉ちゃんに、もし、愛している人がいれば、もしかすると、その人が救うことができたのかもしれないわ。愛するということは、愛する相手が存在することだけで、勇気づけられて、そして、生きたいと思うもの」と言った。
僕は、「結衣にとって、僕はそういう存在でいられているのかな」と言うと、結衣は、目に涙を溜めながらの小さな笑顔で、「私は、あなたのことを信じているわ」と言った。
弥生さんにとって、僕は、どのような存在であったのだろうか。弥生さんは、確かに、僕と結衣の関係を壊すつもりはない、と言った。そして、弥生さんは、結衣を悲しませるようなことはしない、とも言った。ただ、その瞬間だけ、自分を抱き締めてくれればいい、と言っていた。
もう一度、僕の心の中は、僕は弥生さんに与えてもらうだけで、僕は弥生さんのために、何もできなかった、という罪悪感で一杯となった。
そのとき、弥生さんの声が聞こえてきたような気がした。
「いいえ、違うわ。ハジメくんは、私に新しい命という希望を与えてくれたのだもの。しかし、私の絶望は、その希望よりも深かったというだけ」
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