[連載小説]いつか君にふたたび出逢うときまでに:「愛する」ということの意義について(5)
「あーあ、言っちゃった」と美友里は言った。僕は、「えっ?」と、美友里が言った言葉を確認した。美友里は、「「言っちゃった」と言ったのよ」と言った。「言ってはだめだったの?」と、僕が聞くと、美友里は、少し困った顔を見せながら、「決めないといけないでしょ」と言った。
僕は、「決めないといけない、というのは、どういうことなの?」と尋ねると、「あなたと付き合うのか、それとも、あなたとの関係を終わりにするべきなのか、それを決めなければいけないでしょ」と、美友里は答えた。
僕は、「そういうものなの?」と聞くと、美友里は、「少なくとも、私は、これまで、そうしてきたわ」と答えた。
美友里は、「あなたとは、もう少しの間、良い友人でいたかったのよ」と言った。僕は、「でも、この前、小さな声で、「はっきり言えばいいのに」とつぶやいたから」と言うと、美友里は、少し笑って、「それは、あなたが、もじもじとして、なんだか、悶々とした態度をしているからで、別に告白をして欲しいとは言っていないわよ」と言った。
僕たちは、潮風が吹き込むデッキの近くのベンチに座った。美友里は、「生暖かい風ね」と言った。季節は、夏の初めになっていた。目の前には、日の出埠頭に入る船が近づいてきていた。
この季節になると、毎年、僕は、弥生さんのことをかすかに思い出すのであった。弥生さんが亡くなって、かなりの時間が経過していた。日常の生活の中で、弥生さんのことを思い出すということは少なくなった。少なくなったというより、むしろ、ほとんど無かった。しかし、弥生さんが亡くなった頃の冬の冷たい風よりも、弥生さんと出会い、初めて、弥生さんを抱いた頃に感じた夏の生暖かい風を感じると、ふと、弥生さんのことを思い出してしまうことがあった。
僕と美友里は、黙ってベンチに座っていた。どちらかからも話し始めることもなく、僕は、ただ目の前の客船を眺めて、美友里は、もっと遠くの方を見ていた。



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