[連載小説]いつか君にふたたび出逢うときまでに:「愛する」ということの意義について(1)
僕は、パークハイアット新宿の最上階にある「ニューヨークグリル」という店にいた。この店は、僕にとっては、「特別な場所」であった。
たぶん、どの男性にもこのような「特別な場所」、「特別な店」というものが、少なくとも1つや2つはあると思う。このお店は、友人と気軽に行く店であるとか、このお店は、本当に好きな人としか行かない店であるとか、ひとつひとつのお店に、それなりの意味があり、一緒に出かける相手やシチュエーションによって、お店選びをする。
大学を出てから、僕は、文章を書く仕事をしていた。大学3年生のときに、ある小さな文芸賞を受賞し、文章を書く仕事を選択した。しかし、好きな小説を書いているだけというわけにはいかず、出版社から依頼があれば、さまざまな種類の仕事を引き受けた。時には、グルメ雑誌の記者として、時には、旅雑誌の記者として、文章を書いた。自分が最も書きたいと思う小説を書く時間は、徐々に少なくなり、ただ、生活をしていくために文章を書くという行為を絶え間なく続ける日々であった。
この間、僕は、いくつかの恋愛をして、そして失恋を経験した。大学受験の時期に、高校時代に付き合っていた吉田結衣と別れた。その理由を挙げれば、さまざまな理由付けが可能であると思うが、最も大きな理由は、結衣の姉である弥生さんの死に起因するものと思う。弥生さんの死は、結衣だけではなく、僕にとっても大きな衝撃となったし、大きな心の変化をもたらした。弥生さんは、僕の初めての異性であったということだけではなく、弥生さんのお腹の中の新しい生命のこと、そして、弥生さんにとって、きっと最後に接した人間が僕であったことに違いないという事実が、僕に大きなギルティを課していた。このギルティが、結衣に対する結衣を裏切り続けたことのギルティと合わさり、相乗効果を発揮し、僕を苦しめた。こうしたギルティは、いつしか、僕に、結衣と意識的に距離を置かせるようにし、そして、大学受験という物理的な理由も組み合わさり、僕と結衣の関係は修復できないものとなったのであった。



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