[連載小説]いつか君にふたたび出逢うときまでに:遠い過去の記憶(56)

※本作品は、フィクションで、登場人物、団体、背景は架空のものです。もちろん、主人公の「僕」は、著者と同一人物ではなく、フィクションです。
弥生さんは、「それでもいいのよ」と言った。「それでもいいの。あなたが私のことを愛してくれなくてもいいの。あなたは、結衣のことを好きでいればいい。私は、あなたのことを独占しようとも、私のものにしようとも思っていないわ。でもね、私は、温もりが欲しいの。人の温もり、優しさが欲しいのよ」
僕は、「ごめんなさい。僕には、弥生さんが言っていることの全ては、まだ理解することはできない。」と言い、少し間を置いて、「でもね。少しはわかるよ。」と言った。
「何があったのかわからないけど、弥生さんの言いたいこと、気持ちはわかるよ」と言った。すると、弥生さんの目から涙がこぼれた。そして、弥生さんは、僕の胸のあたりに頭を押し付けたまま泣き始めた。僕は、少し黙ったままでいた。僕の胸で泣きたいのであれば、それぐらいは黙っていようと思った。そうしながら、僕は弥生さんから聞いた弥生さんの東京での生活の話をひとつずつ思い出していた。思い出しながら気が付いたことがひとつだけあった。それは、彼女は言葉にしながら、彼女の話にはある種の影がかかっていた。天気で言えば、晴々しい天気というよりは、どことなく、いつも雲がかかっている状態であった。


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