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ウルトラ・ダラー

 今回、読み終えたのは、手嶋龍一『ウルトラ・ダラー』。

 実は、昨日にも「読んでいます」と紹介をしたのだが、やはりすぐに読み終わった。それだけ、読んでいるときは、集中できるし、読んでいないときは、読まずにはいられない、という、最近では、久しぶりに世界にハマりこむ作品だった。こんなにハマったのは、村上春樹以来かなと思う。

 内容について書いてしまうと、後ろから石を投げられそうな感じもするので、それは避けておくことにしよう。
 簡単に言えば、東アジアの某国が、「ウルトラ・ダラー」という精巧な偽ドル札を作ったことから始まるインテリジェンス戦争についてのお話である。

 内容は、たぶん真実にかなり近いものだと思われるので、リアリズムから来るダイナミックスさというのが、本書の最大の魅力なのではないかと思う。

 瀧澤勲のモデルは言うまでも無く、半分以上は、実際の人物がモデルになっている。これも、かなり憧憬が思い浮かべやすくて本自体が面白くなっている理由のひとつだ。

 さらに、内容にやや触れるので、あまり書かないが、国際政治・国際関係における各国の意思というものが、こういうことなのか!ということが、なんとなく理解できてしまう、というところに、NHK記者出身の作者の魂が込められているのではないかと思う。

 NHKの元ワシントン支局長であった手嶋氏のことなので、意図的に、現実とのギャップを作り出していると考えられることがある。それは、内閣官房副長官の高遠氏のことである。
 内閣官房副長官は、3名であり、小泉内閣では、衆議院議員、参議院議員から1名ずつ、事務次官経験者1名という布陣である。基本的に、内閣官房副長官は事務方のトップであり、事務次官経験者など、すでに一度、省を退職している者が就任をしている。この点で、前職が、外務省条約局の審議官であったとされている高遠氏が官房副長官であることに違和感を覚える。総理大臣秘書官もしくは、外交問題担当の補佐官、官房副長官補であれば納得はできるが、官房副長官というのは、いささかポストとしては高すぎるのではないかと思う。このあたりは、あまりにもリアル過ぎるよりも、小説としてのいわば緩衝材として、あえてその高いポストに設定していると見るべきであろう。

 主人公は、スティーブンという、表はBBC記者で、裏は英国のインテリジェンス機関の諜報員という設定で、特命係長的なフレーバーもし、面白いのだが、ここは日本人であったら、なお親近感がもてたと思う。

 さらに、最後の瞬間まで、その2つの顔がうまくバランスが取れていて、クレバーだったものが、最後の場面で、バランスが崩れてしまったところは、小説家としての欲望が抑えられなかったのではないかと推察する。

 ストーリーの展開も、場面の展開も、なかなか難しい部分もあり、このあたりの再構築は必要かもしれない。ちょっと、早急すぎる部分もあった。

 ただ、面白いことは事実なので、ぜひ、読んでみてください。

 評価:★★★★☆(星4つ)

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