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電話のさき(6)

 「ねえ、聞いている?」とナツコさんは言った。僕は、「うん、聞いているよ」と言った。「つまり、もうあなたとは会いたくもないし、話したくもない。もっと言えば、あなたとの接点すら持ちたくないの。でもね、仕事だから仕方がないのよ」とナツコさんは言う。僕は、「わかるよ」と答えた。ナツコさんは、「一応、誤解をされたくないから言っておくけど、あなたに対して何の気持ちもありませんから。それは、これからもずっと変わることはありません。ただ、必要だから、残された契約期間のうちは、仕事はあなたの会社にお願いするわ。それがルールだから」と言った。僕は「かまわない」と言った。ナツコさんは、「ただ、約束して欲しいの。私のカウンターパートはレイコさん。あなたではなくて、レイコさんを通じて、残された期間、仕事をお願いしたいの」と言った。僕は、「それがいい。良い方法だと思う」と答えた。

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電話のさき(5)

 「でも、レイコさんに仕事を頼む以上は、最低限のマナーは果たさなければいけないと思って。本当は、あなたと仕事なんてしたくないのよ」と、ナツコさんは言った。「でも、レイコさんは優秀な人だし、あなたの会社との付き合いは、現在のところ、必要だから」と言った。僕は、もう何も答えることができなかった。

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ある狼の死

 先日、村上春樹の『辺境・近境』を読んだ。「ノモンハンの鉄の墓場」というノモンハンへの旅のエッセイで、雌狼に出逢ったときの話は、電車の中で読んでいたのだけれど、涙が出そうになった。

 「狼は立ち止まり、肩で大きく息をし、覚悟を決めたように僕らのほうをじっと見つめる。どうあがいてもそれ以上逃げ切れないことを、狼は知っている。そこにはもう選択肢というものはない。死ぬしかないのだ」

 「チョグマントラは運転手にジープを停めさせ、ライフルの銃身をドアに固定し、照準を狼にあわせる。彼は急がない。狼がもうどこにも行かないことを彼は知っている。そのあいだ狼は不思議なくらい澄んだ目で僕らを見ている。狼は銃口を見つめ、僕らを見つめ、また銃口を見つめる。いろんな強烈な感情がひとつに混じりあった目だ。恐怖と、絶望と、混乱と、困惑と、あきらめと、・・・それから僕にはよくわからない何か」

 「一発でその狼は地面に倒れる。身体がしばらく痙攣しているが、やがてそれも終わる。小柄な雌の狼だ。季節からして、子供のために餌を探していたのかもしれない。僕はそのやせっぽちの狼が、鉄の車と鉛の弾丸からなんとか逃げ切ることを内心祈っていたのだが、結局奇蹟は起こらなかった。死体に近寄ってみると、狼は恐怖のあまり脱糞していた。肩の少し後ろに銃弾は命中している。それほど大きな弾痕ではない。上着のボタンくらいの大きさの、丸い血の染みが現れているだけだ」

 僕は、その雌狼の姿を丁寧に思い浮かべてみた。狼の瞳の奥には、どんな感情があったのか。村上春樹は、「恐怖と、絶望と、混乱と、困惑と、あきらめと、・・・それから僕にはよくわからない何か」とあるが、その何かとは、何なのか。言葉というような具体的な、説明的な、記述的なものにはならないだろうけど、生物には感情が必ずある。人間は、それを言葉や憧憬を通じて表現することが出来る。でも、それだけのことだ。どんな生き物にも感情はあるのだ。

 僕は、その狼が本能的に死を悟ったときの何かしらの感情を知りたいと思った。子供たちを残して死んでいくことの無念の思いなのか、それともその他の何かなのか。

 そして、死は、そのとてつもなく大きな感情と反比例するほど、静寂にやってくる。
 
 僕は、そこに人間的な弱さの根源とも言える何かが隠されているのではないかと思う。死への恐怖とは何なのか。無に帰することへの恐怖なのか、それとも、もっと僕にはわからない何かへの、しかし確実にやってくる何かへの恐怖。

 人間は、その恐怖を幾分やわらげるために、宗教を生み出したのだと思う。人間は、宗教を生み出すことによって、「死」=「無」という世界観を超えようとした。まさしく、「死」の先に、「有」の世界観を模倣的に作り出すことによって、根源的な恐怖から解放されようとしたのである。

 僕は、この狼の死を通じて、人間が抱える、どうすることもできない、理不尽なほど大きな恐怖を知り、それが生み出す人間の弱さを無意識に感じ取ったのである。

 恐怖とその恐怖が生み出す人間の弱さを知ったとき、僕は、誰かにそばにいて欲しかった。そして、その誰かとは誰のことなのか、誰にいてほしいのか、少しずつ答えを見つけようとした。

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電話のさき(4)

 「勘違いはして欲しくないんだけど、つまり、それは、あなたのことを好きだとか、そういうことじゃなくて」と、ナツコさんは続けた。僕は、さらに過去を問い詰められているような気がして、悲しくなった。しかし、「うん、大丈夫だよ」と答えた。

 「本当は、あなたと、こうして話すということもしたくないし、コミュニケーションすること自体を、できるだけ避けたいのだけど」とナツコさんは言った。僕は、「うん」と答えた。「もっと言えば、あなたの存在すら考えるだけで、とても嫌な気分になるの」と言った。つまり、僕は完全に否定をされたわけだ。

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党首討論

 さきほど、ビデオで確認をしました。22日の国家基本政策委員会(衆参合同審査会)。

 例のメールの件は、最後の5分程度でしょうか。(時間をはかっていなかったので、感覚的に)
 久しぶりに野次が飛び交う白熱した委員会になりました。

 その後、永田議員辞意表明→入院・休養ということになりました。

 このメールについては諸説が飛び交っていますが、絶妙なインテリジェンス戦略に乗っかってしまったというところではないでしょうか。

 たぶん、これで株を上げたのが、武部幹事長。意図してかどうかはわかりませんが、自らの身体を盾にして、政権を守ったという印象です。4点セットで守勢に回っていた政権・与党は、幹事長が自ら泥を被ることで、攻勢に転じるという、意図的であれば、本当に絶妙な戦略だと思います。

 22日の基本委員会も、本来であれば、攻勢に出れるはずの民主党・前原代表が、守勢に回らざるを得ない状況で、与野党の勢いが全く逆転していたようなイメージでした。

 行政改革という点では、戦う相手は、もっと違うところにいて、国会の坂の下というところでは、与党も野党も一致しているようなので、それを期に、政界再々編を。

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電話のさき(3)

 「夜分にごめんなさい」と、ナツコさんは言った。「いいよ」と僕は答えた。ナツコさんは、「こうして電話をしていることで、なんというか、おこがましい言い方をすると、勘違いはして欲しくないんだけど」と、ナツコさんは話し始めた。「勘違い」という言葉に僕は心の奥が締め付けられるような思いがした。そして、とても悲しい気持ちになった。多分、これが電話ではなくて、ナツコさんに面と向かって言われたならば、さらにそのショックは大きかっただろう。

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前原さん、新党はいかがですか?

 例のメールの件ですが、永田議員が辞意を表明したとか。自民党を攻撃したつもりが、自陣で火の手が上がってしまいました。巧妙なインテリジェンス戦略という噂もありますが、真相はどこに。

 こういう状況なわけなのですが、ここでいっそ、前原さん、新党を結成してみては??それで、小泉さんと連立するというシナリオはいかがでしょうか。すると、前原さん、前原さんもポスト小泉の有力候補ですよ。

 ポスト小泉争いは、安倍さんと福田さんに絞られてきた感じがしますね。なんだか、徐々に福田さんが競馬で言うところの「差し」をするのではないかとも思えてきました。まあ、安倍さんを温存で、福田さん→安倍さんの流れでも良いのではないかと思います。ここに前原新党が絡んできたら、面白くなりますネ。

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電話のさき(2)

 思い出に浸っていると、僕の携帯のバイブレーションが喧しく震えた。また、神山さんかなと思い、画面を見ると知らない電話番号だった。「もしもし」と、僕が電話に出ると、電話の相手は黙ったままだった。僕は、直感で相手がナツコさんではないかと思った。直感に加え、そうであって欲しいという気持ちもあった。

 「もしもし」と、僕が再び言っても、何も返答はなかった。僕は、「ねえ、ナツコさん。あなたからこうして電話をしてもらえて、とてもうれしいよ」と言った。それでも、相手は黙っていた。僕は、「昼間はろくに挨拶もしなくてごめん」と続けた。すると、電話の先から、「私こそ」という返答があった。やはり、電話の相手は、ナツコさんだった。

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電話のさき(1)

 僕はソファに寝転んで、本を読んでいた。あまり気が乗らないときは、新しい本を読むよりも読み慣れた本が良いと思ったので、村上春樹の「国境の南、太陽の西」を読んでいた。ボーモアを片手に、サンドウィッチをつまんでいた。窓の外に見える高速道路のテールランプは、いつもと変わらぬオレンジで街を不自然に色付けていた。
 季節はすっかり秋らしくなり、昼間もやや肌寒い日々が続いていた。僕は、この季節にユミと一緒に行った井の頭公園を思い出していた。井の頭公園で、僕たちはレジャーシートを広げ、木々の秋の彩りを眺めていた。冬の間近の新宿御苑では、落ち葉の上に寝転がった。僕たちは移り行く季節を確かに感じていた。

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人生楽しいですか?

 「人生楽しいですか?」と聞かれて、「いやー、いまは修行中ですから・・・」とか「神様は30歳までは苦労しろと言っているようで」とか、いろいろな答えを考えてみる。

 自分の人生って、けっこう楽しいのではないかと思っています。だって、人並み以上には、「刺激的」な日々を送っていると思うし。それと、自由に生きている感じがするし、好きなことを仕事にしているし。好きなことも言っている気がする。

 けっこう、楽しい人生を送っていて、これからも楽しい人生を送ろうと思う今日この頃です。

 ただ、それは自己満足に留まらず、社会的情熱、社会的使命、社会的責任は常に忘れないようにしようと思います。

 

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真夜中のさき(59)

 僕は、「人生を楽しむか。それじゃあ、ハワイでも行って来るか」と言った。そうすると、レイコさんは、「それ、いいですね。私も行きたい」と言った。僕は、「ハワイの太陽の下でのんびりと寝転んで、ブルーハワイでも飲みながら、読書でもしたいね」と言った。
 レイコさんは、「そうですね。そういうときは、新しい本を読むのもいいし、読み慣れた本を読み直すのもいいですよね」と言った。僕は、「じゃあ、仕事が落ち着いたら、ハワイに行こうか」と言った。レイコさんは、「楽しみです」と笑いながら言った。

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真夜中のさき(58)

 1時間程度、僕は事務所にいてたまっている書類のチェックをした。そして、全ての書類を決裁して、レイコさんに書類を戻した。
 「僕がいなくても、この会社はもう大丈夫だね。今日は、レイコさんの能力の素晴らしさに声が出ないよ」と言った。レイコさんは、「恥ずかしいから、あまり褒めないでください」と言った。「それじゃあ、僕は帰るよ。また、当分、仕事のことはよろしく頼むよ」と言うと、「仕事のことは、あまり気になさらないで、ゆっくり休んでください。重要な案件の際には、連絡しますから。人生を楽しんでくださいね」と、レイコさんは言った。

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こんな夢を見ました

 ある女性から「結婚します」、というご連絡をいただく夢を見ました。年齢的にも、まあ適齢期ではあるので、もしかすると、正夢なのかもしれませんが。夢の中で頂いた結婚のご連絡は、次のようなものでした。

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 こんにちは。

 このたび、結婚をすることになりました。彼から電話で、「そろそろ結婚しよう」と言ってくれました。
 仕事を辞めて、これからは彼を支えていこうと思っております。
 いままで、お世話になり、ありがとうございました。
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こういうメールが届くという夢でした。バックには、行ったことはありませんが、表参道ヒルズらしく建物。
彼女と、最後に会ったのは、なぜか、会議で、仕事なはずなのに、ポーカーをやっていて、その会場で会いました。その次の場面で、メールが来るという展開。

彼女の相手は、大学のサークルの友人らしく、いまは、何かの営業をしているらしい。所得は人並みよりも若干少ないぐらいで、仕事がバリバリできるタイプではないが、とても彼女のことを大切にしているようである(←これは、かなり重要です)

年齢的にも、あとはタイミングだけという感じらしいです。

彼女的には、やはりプロポーズには感動したみたいで、涙を流していました。(電話を受けているシーンも夢に出てきました)

 まあ、夢の中の話なので、あれなのですけど、お幸せに。という気持ちで一杯です。

 その前の夢は、銀河鉄道999的な電車に乗っている夢(周りの景色は、銀河ではなく、京浜東北線か京急沿線でした)と池脇千鶴が講習会に通う夢でした。

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Love Emotion

感じたことない 胸の鼓動
私をどこに連れて行くの?

あの日見た幻想(まぼろし)信じて
情熱抱えあなたの手を握る

心のどこかにまだ正気(まじ)は残っていて
ほんのかすかな冷静を装っている

Lunaticな感情を抑え切れず
ただあなただけを見つめ続けて
描いた夢を追いかけるだけ

探し求めていた 愛の姿(かたち)
きっとココロの奥底(おく)にある

愛の彼方に辿りつくその日まで
あなたの腕をいつまでも離さない

いつも言葉は空虚(うつろ)に響くだけで
ほんのかすかに記憶に留まっている

Lunaticな世界に踊らされていて
わずかな真実さえも偽物に変える
そんな魔法を解いてみたい

あなたは私のすべて そう信じている

Lunaticな感情を抑え切れず
ただあなただけを見つめ続けて
描いた夢を追いかけるだけ
そんな Love Emotion

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恋愛の先にあるもの

135作品目となる「君は僕のVenus」を書きました。実は、あまりイメージを湧かせずに、春だから、ちょっと明るめの作品を書こうというのが動機です。最近、バラード系のせつない作品が続いたものですから。

こういう感じですので、結構、勢いで書いているところあります。

最近、年を取ってきたのか、恋愛に夢を描いて、妄想をして、というのも、なくなってきたなぁと、少し残念な思いですね。これが年を取ってきたのか、そういう恋愛をしていないのか、どちらなのかはわからないのですけど。

ただ、「年を取ってきた」という点で、確かなのは、そこに現実性というか、具体的に言えば、「結婚」というやつですが、そういうイメージが徐々に強くなってきつつあるのは、否定はできません。周りで結婚し始めている人が徐々に増えてきたということもあるのですが、「恋愛」の先の何かを考えることも、しばしばですね。

そういう意味で、純粋に、平井堅の「POP STAR」の世界観には憧れますね。あの、恋愛に対する純粋さが好きなわけです。いつまでも、この気持ちは忘れてはいけないという気持ちになります。

「半島のさき」は、これから、火曜サスペンスとか土曜ワイドみたいな感じになります、というのは嘘ですが、いろいろなものを追求していこうと思っております。あと、久しぶりに、ドラマの脚本を書きたいんですよね。「危険なアネキ」みたいな恋愛モノ。

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君は僕のVenus

君は僕のVenus
暗闇も明るくするほどの光を放つ
そんなダイヤモンドさ

君は僕のVenus
いつのまにか周りを色あせてしまう
そんな太陽なのさ

電車を降りたら 春の匂いがした
穏やかな陽射しを浴びて
大きく伸びをした

マフラーを脱いで 息を吸うと
恋がいつのまにか走り出す

恋は突然やってくるものさ
神様も気ままに僕たちに
魔法をかける

僕は君のHero?
普段はとても頼りないけれど
もっと頑張る

僕は君のHero?
君だけのために呪文を唱えよう
未来のために

君に出逢ったのも 春だった
出会いと別れの連続に
時計が動き出すこともある

言葉にはできない何かが
君の磁石となって呼び寄せる
運命が弾けだす

君は僕のVenus
何もかも忘れて夢中になる
そんなアイドルさ

君は僕のVenus
陽のあたる坂道を歩いていこう
僕と一緒に

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真夜中のさき(57)

 僕は、「なるほど」と答えた。

 「それで、社長、今日は何の用事ですか?」とレイコさんが聞いた。僕は、「この話を聞いてもらいたかっただけだよ」と答えた。レイコさんは、笑顔を浮かべながら、「社長も気にし過ぎですよ。ナツコさんの一人ぐらい、あんまり気にしてはいけません。もっと、人生を楽しんだ方がいいですよ」と言った。僕は、「人生を楽しむねぇ」とつぶやいた。

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真夜中のさき(56)

 「もし、社長を傷つけたいと思ってやっているなら、性格が悪いと思いますけどね。私が知っている限りでは、そうではなくて、ただ単純に、あまり深く考えないで、やっちゃっている感じです。例えるなら、何気なくコンビニで買い物するために、車を駐車してしまう感じですよ。そういうときに、車を駐車するとき、それが悪いことだって思いながら駐車する人って少ないでしょ」とレイコさんが言った。

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メニューのないイタリア料理屋さん

 春の匂いがした。
 まだ、冬の真っ只中のはずなのに、かすかに春の匂いがした。
 北海道から帰ってきて数日、東京は穏やかに暖かい日が続いていた。

 北海道の夜は、肌に突き刺さるような寒さだった。一転して、東京は、マフラーも外してしまうほどの暖かさ。
 僕は、もうすぐ、そこに春が来ていることを、感じていた。

 陽射しも温かく、本で陽射しが反射し、まぶしかった。冬の間、堪えていた花たちが、いよいよ芽を出す時期が来る。何か、新鮮な気持ちになって、素直に春の訪れを喜ぼう。

 街を歩いていると、道路の反対側に、初めて見るお店があった。四谷の上智大学にほど近いところだ。

 僕はなぜか興味を持って、その店に入ろうと思った。たまたま、僕はパスタを食べたくなっていたこともある。

 そのお店には、メニューがなかった。ほとんどのパスタはできるという。僕は、リングイネが好きなのだが、ペペロンチーノを注文した。それに、店員さんの勢いに飲まれ、いつのまにかオレンジジュースを注文していた。

 パスタだけだと、バランスが悪いので、サラダを注文した。

 メニューがないから、お金がいくらかかるのかわからない。それがちょっと怖かった。料理を待ちながら、お店のソファに座り、考え事をしていた。そのうちに、料理が運ばれてきた。

 料理屋を出て、僕は神宮外苑の方向に歩いていった。歩いているとき、僕は気が付いた。僕は羊を見つけたのだった。羊は僕の中にいたのだ。

 僕は、この夏以来、いろいろと大事なものを置き忘れてきていた。大事な人も失った。
 それは、運命のように、自然にそうなっていた。いや、そうしなければいけなかったのかもしれない。

 やっと、僕は羊男が僕に伝えようとしていたことの意味がわかりそうになった。僕は、もっと踊らないといけない。もっと、気持ちを緩めて、踊ることが重要なんだ。

 もう一度、僕が置き忘れてきた大事なものを取り戻せるのだろうか。いや、僕はそうしなければいけないのだ。

 「ねえ、僕は君に大切なことを預けっぱなしにしていたようだ」

 僕は、信濃町の駅に伸びる道を一気に走り出した。春はもうすぐそこだ。

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真夜中のさき(55)

 僕は、「なるほど」と感心をした。「まあ、あまり気にしない方がいいですよ。いずれにしても、ナツコさんにとっては、あまり深い意味がないんだろうと思いますから。しかも、自分の行動が社長にどういう影響を与えるのか、きっとわかってやっているわけではないから」とレイコさんは言った。僕が「つまり?」と聞くと、「つまり、悪意がない、作為がないということです」と、レイコさんが答えた。

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真夜中のさき(54)

僕は、「それは厄介だな」と言うと、レイコさんは「社長だって、同じタイプじゃないですか」と言った。僕は、「そうかな」と聞くと、「客観的に見れば、二人は似た者同士なんですよ。しかも厄介者同士。共感できるときは、多分、最高のコンビだけど、似た者同士だから喧嘩も絶えないでしょうね。良いときはとっても良いけど、悪いときはとっても悪い、ということですかね」と答えた。僕は、「じゃあ、いまは、とっても悪いときなのかな」と言った。「さらに、私の推測ですけど、実際はしっかりと自分を持っているわけでもなく、意外と周りに流されるタイプかもしれませんね。つまり、周りの意見を激しく思い込むタイプ」と言った。

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真夜中のさき(53)

 僕は、「ナツコさんの考えていることがわからない」と言った。レイコさんは、「うーん」と唸りながら、言葉を選んでいた。そして、「あまり深く考えない方がいいですよ」と言った。僕が「そうかな」と聞くと、レイコさんは「意外とああいうタイプって、単純ですから」と言った。僕が「ナツコさんが単純?」と聞くと、レイコさんは「ナツコさんみたいな人に共通して言えること、それは思い込みが激しいということ。自分が一度、そうだと信じ込むと、誰に何と言われようが曲げない。さらに、他人から間違いを指摘されたくないから、頑固に曲げないんですよ」と言った。

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真夜中のさき(52)

 そして、レイコさんが戻ってくると、ナツコさんは、レイコさんに挨拶をし、僕に冷たい笑顔で「さようなら」と言った。僕も「さようなら」と言った。

 ナツコさんが会社から出た後、レイコさんは、僕に、「何があったんですか?」と聞いた。僕は、「メールアドレスが変わった」と言った。レイコさんは、「メールアドレスが変わった?」と理解ができそうもない感じだったので、僕は「僕が携帯のメールからナツコさんの携帯のメールに送ると届かないんだ」と答えた。レイコさんは、「そうなんですか」と言った。

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羊をめぐる冒険2006-羊男に会いに行く-

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羊をめぐる冒険」と言えば、村上春樹の名作なわけですが、舞台のほとんどは北海道でした。「ダンス・ダンス・ダンス」もスタートは札幌からです。

ということで、僕も羊男に会いに行ってきました。

北海道のことは、それこそ、村上春樹の小説でしか知らなくて、札幌という街のことも、あまり知らず、ただただドルフィンホテルを探す旅。うまく踊れない僕。何かの迷路に迷っているような不安を、僕は抱えながら、一日一日をそれこそ雪かきのようにムダに過ごしているような幻想の毎日。僕は、どこに行こうとしているのだろうか。君は、どこにいるのだろうか。その答えを得るために、僕はきっと羊男に会わなければいけないのだ。

そんな気持ちで、僕は朝の5時過ぎに家を出た。まだ、朝は明けておらず、朝の闇の中で、少しずつ一日が始まる確かな時間の流れを感じていた。

三田で、京急線の羽田行き急行に乗り換えた。空港行きのお客さんが多い。ふと、前に寝ている女の子が、どこかで見たような感じの女の子であった。誰だろうと思っていると、映画「NANA」の中島美嘉を思い出した。つまり、その女の子は、「私NANAだけど、何か?」みたいな服装と髪型をしているのだ。なかなか香具師な感じだった。

7時30分の飛行機に、5分前に飛び乗った。隣は、若い学生風の男の子だ。もし、女の子だったら、新たな恋愛ストーリーでも生まれるところだろうけど、そういうこととは、あまり縁はなさそうな機内だった。

北海道で、僕は、一人の女の子に出会った。その女の子とは雪祭りで出会った。
彼女とは、東京でも埼玉でも、ほとんどのところで、会ったことがある。でも、北海道での彼女は、いつものかわいらしさをより尊大にアピールしていた。胸を張って、がんばって背伸びして自己主張をしているようだった。

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昼食は、二条市場というとことに向かった。ドルフィンホテルを探しているとき、タクシーの運転手さんに、僕は尋ねてみた。「ねえ、運転手さん、ここらで、あまりこじゃれていなくて、安くておいしい店って、ないですかね」

僕は、ガイドブックに載っているようなお店には、あまり行かない。その街に住んでいる人が、日常に行く店が好きなのだ。すでに、この街に来ていることが、僕にとっては非日常であって、これ以上、それを踏み越えるわけにはいかない。僕は静かに、日常を楽しみたいのだ。

タクシーの運転手さんは、「それだったら」と、二条市場を勧めてくれた。僕は、「海鮮物」という条件を付け加えて、「それだったら」と紹介してくれたのだ。

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二条市場の中に、とても混んでいるお店があった。市場の中の卸売りの魚屋さんが直営している店だ。お店の名前は、どんぶり茶屋。会長のおじいさんは、なんだか、懐かしい気持ちにさせてくれる人だった。僕は、丸鮮セットを注文した。

昼食を食べた僕は、ドルフィンホテルと羊男を探しに、再び街を彷徨った。ふと、目の前には赤レンガの建物があった。旧道庁のビルだ。

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もしかすると、ここに羊男がいるかもしれない。僕はそう思って、その赤レンガの建物に入った。しかし、どこを探しても、羊男は、姿を表さなかった。

僕は、本当に、この旅で羊男に会えるのだろうか。ふと、そんなことを考え、少し感傷的に浸っていると、目の前に、昔の知事さんたちが使ったという年代物の机とイスがあった。

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僕は、ふと人の気配を感じた。周りは、暗くなり、静寂に包まれた。僕は、怖くなり、そこから逃げ出そうとしたとき、イスの上に、羊男が座っていた。羊男は、「僕に何か用かい?」と、僕に尋ねた。

僕は、「君を探していたんだ」と答えた。羊男は、黙っていた。

僕は、「君とは、暫く会っていなかった」と言うと、羊男は、「僕はいつでも君のそばにいた」と答えた。

「そんな気はしていたよ」と、僕は答えた。そして、「ねえ、教えて欲しいことがあるんだ」と羊男に話しかけた。

「君と最後に会ってから、いろいろなことがあった。新しい出会いもあり、別れもあった。楽しいこともあり、辛いこともあった。でもね、どうしても、ひとつだけ気になることがあるんだ。いま、あの羊はどこにいるんだろう」

すると、羊男は、「もっと踊るんだ。もっと踊れば、何かが見えてくるよ。君の友人の鼠も、きっとそれを待っている」と言った。僕は、「ありがとう」と言った。

気が付くと、僕は赤レンガの建物の前に立ち尽くしていた。少し呆然と立ち尽くした後、羊男の伝えたかったことを考えてみた。僕は、タクシーに乗り、サッポロビール園に行って、ビールを飲んだ。

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その晩、僕はドルフィンホテルにはたどり着けなかった。これから旭川の方に行こうとしたけど、ラジオでは道中が吹雪であることを告げていた。一度、東京に戻って、いろいろな整理をして、そしてもう一度、北海道に来よう。今度こそ、羊を見つけて、鼠と会う。羊男の伝えたかったことを知ろうと思った。

帰りの飛行機で、僕は、スパークリングワインを頼んだ。ワインを空けて、窓の外の夜景を見ながら、羊男と乾杯をした。

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真夜中のさき(51)

 レイコさんとナツコさんの話が終わったようだった。レイコさんは、ナツコさんに、「ちょっと待っていて」と断って、外に出た。ナツコさんは、「いいわよ」と言って、再びイスに座った。僕とナツコさんの間には、不思議で冷たい空気が流れた。もちろん、僕はパソコンの画面を向いているし、ナツコさんは書類をカバンに入れていた。無言の時間が、とてつもなく長く続いているように感じた。

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真夜中のさき(50)

 ナツコさんは、レイコさんに仕事を発注しているようであった。つまり、うちの会社に仕事を発注してきているということなのだ。それも、また複雑な気持ちであった。いま、僕の中では、ナツコさんとの接点を極力避けたいという気持ちと、できるだけ接点を持ち続けたいという気持ちが同居していた。

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真夜中のさき(49)

 ナツコさんは、僕の方を見て、薄い笑顔を浮かべながら、「こんにちは」と言った。僕も、「こんにちは」と言った。そして、僕は自分の席に座り、パソコンを起動させた。ナツコさんは、僕を全く気にすることなく、レイコさんと打ち合わせを続けた。
 
 僕は、パソコンの画面を眺め、作業をするフリをしながら、レイコさんとナツコさんの話の内容を聞こうと、耳に神経を集中させていた。

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真夜中のさき(48)

 会社に到着して、ドアを開けると、ナツコさんとレイコさんが話していた。僕の心の中を、激しい動悸が支配した。ナツコさんに、合わせる顔はあまりないし、話をすれば、感情的になってしまうかもしれない。未練と怒りが複雑に絡み合い、そして、それが変な方向に動き出す。話そうと思えば思うほど、言葉が出なくなる。一人のとき、あれだけ、ナツコさんに伝えたい言葉を思い浮かべたはずなのに。

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真夜中のさき(47)

 自分の気持ちを和らげるためには、自分に都合の良いように納得するしかなかった。きっと、ユミに言わせれば、「本当に都合の良い人ね」ということなのだろう。さらに言えば、「大人なんだから、もっと君は自分を客観的に見られなければだめよ」と怒られるところだろう。実のところ、理由は単純で、ただ単に僕からの連絡が嫌なだけであろう。
 このあたりのこと、レイコさんやさきはどのように考えるだろうか。レイコさんの意見を聞いてみたくなったので、会社に行くことにした。

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真夜中のさき(46)

 そう、これはナツコさんのある種の優しさなのだ。コミュニケーションを絶つことによって、僕を恋愛の悪循環から救ってくれる最後の優しさなのだ、と思った。冷たくすることも優しさなのだ、と。一生交わることのない二人の運命を、未練なく切り離すためには、潔く、その縁を切ることなのだろう。それによって、僕は新しい生活を始めることができる。ナツコさんは、僕よりももっと頭の良い人だ。そして優しい人だ。僕が立ち直るためには、ナツコさんとの関係が無ければ無い方が立ち直ることが早いかもしれない。だから、ナツコさんは、僕とのコミュケーションのつながりを断ち切ったのだと。

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体調不良

また、体調不良です。。。

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真夜中のさき(45)

 そのうち、ある言葉が思い浮かんだ。

「あなたの優しさが、僕をさらに傷つけるんだ。君が優しければ優しいほど、僕は君を忘れられなくなる。だから、もっと僕に冷たく、そして辛くあたってもらった方がいいのかもしれない」

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真夜中のさき(44)

 僕は、布団に潜り込み、まずは理不尽な怒りを収めようとした。もちろん、悪いのは僕だし、ナツコさんに嫌われても仕方がない。でも、この仕打ちはあまりにも酷いのではないか。そう頭に血を昇らせた。まずは、これを落ち着かせなければならない。どのように自分の中で納得する理由を見つけるのか、これが最大の論点だ。いろいろな理由を考えた。しかし、自分を納得させる理由はどうしても見つからなかった。

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真夜中のさき(43)

 メールは確実に、送信エラーで戻ってきてしまったのである。それが、どのような理由なのか、それを理解するのに、さらに時間がかかった。そして、その意味を理解したとき、僕の胸の奥から心が強く引き裂かれる音がした。これは、ナツコさんからの「あなたとは連絡も取りたくない」という無言のメッセージなのだと。

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真夜中のさき(42)

 僕は、一瞬、そのメッセージの意味を理解することができなかった。メールアドレスが変わったのだろうか。確か、ユミと分かれたとき、ユミはいつのまにかメールアドレスを変更して、やはり、何かの用事でメールしたとき、「送信先メールアドレスが見つからないため、送信できませんでした。メールアドレスご確認の上、再送信してください」というメッセージが戻ってきたことがあった。

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