悲しみのワルツ-日常の中の僕-(17)
レイコさんは、ラッシュアワーが終わる頃に、僕の部屋を出て、自宅に戻った。レイコさんには、夕方前に事務所に来ればいいと言った。僕は、もう一眠りして、昼すぎに事務所に向かった。
昼過ぎに到着した僕の事務所は、文字通りガラーンとしていた。この二日間に起きたこととは、全く関係のない日常の空間だった。僕は、ソファーに埋もれて、お気に入りの小説を読み出した。僕は、こう見えても本をたくさん読む方で、昔、図書館の受付のアルバイトをしていたぐらいだった。大学生の時、僕は、僕の住む街の区立図書館で夏の間、アルバイトをしていた。特に時給が良かったわけではなかったが、本の側にいることに、至福を感じていたのだった。
最近、買った本を読んでいると、ドアをノックする音が聞こえた。僕は、「どうぞ」とドアの向こうに聞こえるように言った。ドアを開けて入っていたのは、なつこさんだった。
「こんにちは。」と、なつこさんは言った。
僕は、読んでいた本のページを開いたまま裏返しにして、テーブルの上に置いた。
「あいかわらず、暇そうね。レイコさんは、今日はお休みなの?」と、なつこさんは言った。
「まあ、うちは季節労働だからね。忙しいときと暇なときが交互にやってくる。実は、この2・3日にいろいろとあって、今日は、開店休業状態なんですよ」と言った。
なつこさんは、「実は、ご挨拶に来たの。あなたには、いつもいろいろとお世話になっているし。私、会社を退職することにしたの」と言った。
僕は、「会社を退職されるの?」と、聞きなおした。
「そう。こんど、あるレストランから、コーディネーターとして来ないかと誘われて。都会に幻想空間を作るようなレストランを作るためには、私が必要だって、そのオーナーに言われて、私もやってみようかなと思って」と、なつこさんは言った。
「うん。それはいい。君は、広告会社で、会社に縛られているには、もったいないほどの能力と魅力とセンスを持っている。もっと、君は自由に発想をして、表現をするべきなんだ」と、僕は言った。


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