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街を歩こう(1)

 夜、散歩をするには良い季節になった。昼間の暑さの余韻に浸りながら、少し汗をかき、夜風に当たりながら歩くということは、とても気持ちいい。昔から、夏の夜の過ごし方、楽しみ方には、いろいろな工夫があった。

 ぼくは、有楽町線で有楽町の駅に行った。お目当ての買い物をしようと思っていたのだが、時間はすでに19時30分を過ぎていた。麹町のモスバーガーで、サラダと、テリヤキバーガーのセット、フレンチポテト、そして木いちごのシェイクを注文する。ハンバーガーとポテトが出来上がるまで、本を読みながら、サラダを食べる。腹八分目ぐらいな状態で、ぼくは、これからどうしようかと考えたところ、ウェッジウッドのコップをプレゼント用に買おうと、有楽町に向かったのであった。

 ウェッジウッドの丸の内本店は、もう閉店していた。そこで、ぼくは、通りを丸の内の方向に歩くことにした。すでに有名だが、その通りは、ブランド・ショップが連なっている。夜の薄暗さとショップの明かりで、なんとも言えない幻想的な雰囲気が醸し出されていた。

 ぼくは、丸ビルまで歩いた。東京駅の方向をみたとき、ぼくがこれまで見たことがない高層ビルの明かりが見えた。位置的に、日本橋のコレドかなと思った。こうして見回してみると、高層ビルが、増えたものだ。ひとつひとつにストーリーがある。そこに人々が住んでいれば、嬉しさや喜び、悲しさや憎しみが、ひとつひとつの明かりに内包されているように思えた。

 ぼくは、ふと、汐留に新しく出来たコンラッドに行ってみたくなった。7月1日にオープンしたばかりのヒルトンの最高級ブランドのホテルだ。そこで、ぼくは東京駅から電車に乗る手はあったのだが、夜風に誘われ、歩いて、汐留に行くことにした。

 東京駅から東京国際フォーラムの前を歩いて、まずは有楽町に向かった。オフィス街だけあって、ネオンはないが、おしゃれな店が並んでおり、いくつか、次の機会に来てみたいお店をチェックした。通りを歩いていると、これからバイクに乗ろうとしているカップルが仲良くヘルメットをかぶろうとしていた。お互いに、少しじゃれ合いながら、愛を交換するように、彼と彼女はバイクに乗ろうとしていた。

 有楽町に着くと、どのコースを通るかで、少し悩んだ。そのまま新橋に向かうのと銀座を通るふたつのコースがあるだろう。ぼくは、線路沿いを新橋に向かって歩くことにした。特に深い意味はなかったが、新橋の喧騒が懐かしく思えたのであった。

 背中には、リュックを背負って、帽子をかぶって、ぼくは有楽町から新橋までの線路下と脇の飲食店街を歩き始めた。どこかのハイキングの帰りかはたまた家出少年かというような服装だった。ぼくは、いま、デタッチメントの状態にある。できるだけ、精神的に社会からデタッチメントして、素直にぼく自身を見つめたいという状態である。手探り状態で、ぼく自身の中の欠落を見つめ、そしてそれをどうするのか、わからないけれど、自分自身に向き合いたいと思っている。こうして歩いているのも、実はデタッチメントの作業なのだ。

 ある飲食店から、男性とその後に女性が出てきた。女性は涙を浮かべながら、男性に何かを告げている。詳しい言葉はわからないが、彼女と彼の人間関係に、何か溝が生まれ、彼のベクトルが別な方向に向こうとしていることは様子から察することができた。

 街にはいろいろな物語がある。その物語を街は優しく見守っている。街並みは年が経てば変わるが、その本質は全く変わっていないのではないかと思った。

 ぼくは、新橋駅の交差点で左折し、そのまま汐留の方向に向かった。電車発祥の地と言われる、広場のところから、汐留のエリアに入った。そして、真っ直ぐにカレッタ汐留の方に向かい、コンラッドを探した。どこかの雑誌でみたとき、コンラッドは汐留でも奥の方、浜離宮に近い位置にあるようであった。

 コンラッドの入り口はなかなか見つからず、(女性とのデートではなくて良かった!)、ツインタワーの方まで行ってしまった。犬の散歩をしている女性が数人、道の途中で、挨拶をしていた。そして、タワーの脇にある小さな公園に入った。この公園はなかなかおしゃれな感じで、静かな公園であった。

 ぼくは、口笛を吹きながら、身体を反転し、もういちど、汐留の方向に歩いた。そして、標識に従って、(来た時は、半分、標識に従わなかったから別な場所に行ってしまったのだ!)、コンラッドの入り口に到着した。

 入り口で、迷っているとスタッフの女性が声をかけてきた。ぼくは、当初、様子を見に来ただけであったが、「どのようなご用事ですか」と聞かれたので、「食事をしようかと思って」と答えた。気分は、中学生くらいの少年が大人の街に来てしまって、「来てはいけない」というような一種の制約的状況の中で、勇気を奮って、一歩、足を踏み出したときの緊張感に近い。

 女性は丁寧に「あちらのエレベーターで28階まで上ってください」と教えてくれた。ぼくは、「どうもありがとう」と言って、直通のエレベーターに乗った。エレベーターを降りると、華やかなでしかも優しい光がぼくを包んだ。28階がレセプションになっているようだ。そして、細長く、レストランが並んでいた。ぼくは、一通り、夜景がきれいなお店はどんなお店なんだろうと思いながら、レストランの様子を伺った。

 そして、せっかくなので、バーでお酒を飲むことにした。なぜ、その気になったのか。それはレインボーブリッジを望む東京湾の夜景が素晴らしかったからだ。

 ぼくは、お店に入り、ボーモアの15年物のウイスキーを注文した。ボーモアは、坂本さんが好きなウイスキーだ。ぼくは、富山にいる坂本さんのことを思い出しながら、ウイスキーをなめた。ぼくが座った席からはレインボーブリッジは見えにくかったが、隅田川や豊洲の夜景、お台場の夜景、そしてその先の千葉の夜景を楽しみながら、静かにウイスキーを飲んだ。そうしていると、生演奏が始まり、幻想的な空間をさらに幻想的なものへと変えていった。

 非日常のどこか異空間であった。そう、外国に旅行して、その滞在先のホテルのバーで感じるあの憧憬であった。

 ぼくは、ウイスキーを飲み終わると、チェックをして、現金でお会計を済ませて、現実の世界に戻ることにした。

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