青い蝋燭(1)
石和裕美が死んで、一週間が経った。一週間前、僕は、新宿のある蝋燭屋に立ち寄り、不思議な経験をした。その後、夢の中で、記号としてのユミに会い、石和裕美のメッセージと思われるいくつかの言葉を聞いた。そして、その翌日に石和裕美が死んだ。時間にしてみればたった二日間の出来事であったけれど、1年分以上の重みがあった二日間だった。
その後の一週間、僕は仕事に集中した。もういちど、ユミに会わなければいけない、と思いつつも、それを実行するためには、多くの勇気と労力が必要であった。もし、ユミともう一度会ったところで、何を僕は知ろうとしているのか。そして、ユミに会うどんな理由を僕は持っているというのだろうか。
そんなことを考えているうちに、僕は決意をしながらも、行くべきか行かざるべきかを行ったり来たり、循環をしていた。
今夜は、レイコさんとなつこさんの店に行く約束をしていた。石和裕美の件では、レイコさんに迷惑をかけたので、そのお礼の意味を込めて、彼女を食事に誘ったのであった。僕はなつこさんの店に、昼間のうちに電話をすると、なつこさんが電話に出た。
「今夜、うちの竹下と一緒に、お伺いするよ」と、僕は言った。なつこさんは、「まあ、うれしいわ。レイコさんとお会いできるのも楽しみにしているわ」と言った。
僕とレイコさんは、仕事が終わってから、タクシーに乗り、なつこさんの店に向かった。なつこさんの店に着くと、黒服を着た男が店のドアを開けてくれた。そして、僕は僕の名前を告げると、「お待ちしておりました」と、レイコさんをエスコートして、僕たちの席に案内をしてくれた。
なつこさんが、僕たちに用意してくれたのは、夜景が素晴らしいVIP用の個室であった。その黒服の男は、山口と名乗った。この店の副支配人ということであった。山口さんは、「いま、支配人も参りますので、お待ちください」と言い、ワインリストを僕に差し出した。僕は、赤ワインと白ワインを一本ずつ注文した。
山口さんは、「かしこまりました」と言い、部屋から出ると、入れ替わりに、なつこさんが部屋に入ってきた。「いらっしゃい。本当に来てくれたのね。うれしいわ。今日は、うちの店でもっとも自信のあるお料理を食べていただきたいのだけど、よろしいかしら?」と尋ねてきたので、僕は「楽しみにしているよ」と言った。なつこさんは、僕とレイコさんに、お店のいろいろなことを説明してくれた。


Comments