青い蝋燭(3)
タクシーで、レイコさんを広尾まで送った。タクシーの中で、レイコさんはしつこいぐらいに、なんで誘わなかったのかとか、もったいないとかと散々文句を言った。僕は聞き流した。広尾で、レイコさんを降ろした後、僕は突然、新宿のあの蝋燭屋に行こうと思い付いた。そこで、タクシーの運転手さんに、新宿の歌舞伎町まで行ってもらうように言った。
一週間前に彷徨った記憶を頼りに、僕はあの蝋燭屋に向かった。すると、一週間前と同じ場所にその蝋燭屋はあった。僕は暖簾をくぐると、一週間前と同じ初老の男性が店番をしていた。
「いらっしゃい。また来たんだね」と、その男性は言った。
「もう一度、夢の中で、ユミに会いたいんだ。だから、あの赤い蝋燭が欲しいんだ」と、僕は入る早々、注文をした。男性は、「同じ蝋燭はないんだ」と言った。僕は、「こんなに多くの蝋燭があるじゃないか」と反論した。「全く同じ蝋燭はないんだ。ひとつの蝋燭は一度しか使えない」と言う。僕は、「僕はそうしたら、どうすればいいんだ」と男性に尋ねた。
「君がここに来ることはわかっていた。偶然ではなく、それが運命であり、必然なんだ。石和裕美が死んだのも偶然に交通事故にあったからではなくて、交通事故にあうのが運命だったんだ。その運命の必然の結果として、彼女は死んだ」と男性は言った。
「あなたは、石和裕美のことを知っているの?」と、僕は聞いた。男性は、「石和裕美本人のことは知らない。しかし、君を取り巻く運命は知っている」と言う。僕は、「それじゃあ、僕はどこに向かおうとしているの。僕の運命の先には、何が待っているの?」と尋ねた。男性は、「そう焦るな。君は君自身で、自分の運命を知らなければいけないんだ。人から教えてもらうことはできないんだよ。だから、掘るんだ。とことん掘るんだよ」と言う。僕は「何を掘る?」と言った。男性は、「とにかく掘るんだ。夢の世界であれ、現実の世界であれ、掘り続けるんだ」と言った。
「ユミは、君の欠落を指摘した。君はその欠落を埋めなければいけない。そうしなければ、君の運命の針は先には進まない。掘って埋めるんだ。埋めて掘る。その繰り返しを続けていけば、君の運命の針は必ず進む。そうすれば、君は君自身の運命を知ることが出来る」と男性は言う。
僕は、「僕は、何をすればいいの?どこを掘って、どうやって僕の欠落を埋めるの?」と聞いた。男性は、青い蝋燭を取り出し、火を灯した。僕は青い蝋燭に灯された火を見つめた。そのうちに、僕を深い暗闇が包んだ。そして、僕の意識は徐々に現実の世界から遠のいた。僕は、そのとき、なつこさんの顔を思い浮かべていた。しかし、そのなつこさんの顔も徐々に小さくなっていった。


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